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スタートアップの登竜門のTC Disrupt 2022に見るスタートアップトレンド | InfoComニューズレター

本記事は、NTTコミュニケーションズ イノベーションセンターの小室智昭氏より寄稿いただいた原稿をそのまま掲出しています。

1. はじめに

 米国は10月から本格的な秋のカンファレンスシーズンに突入した。シリコンバレー周辺以外でもLas Vegas市やNew York市などで大規模なカンファレンスが開催される。本稿ではテック系ブログとして有名なTechCrunch社が開催するスタートアップの登竜門となっているTC Disrupt 2022について報告する。

【写真1】会場で参加者を迎えるTechCrunch社のロゴ

【写真1】会場で参加者を迎えるTechCrunch社のロゴ
(出典:筆者撮影)

2. TC Disruptに見るスタートアップトレンド

2-1. TC Disruptとは

(1) イベント概要

 TC Disruptはテック系ブログのTechCrunch社が2007年に40社を集めてStartup Pitch、展示を行った”TechCrunch40″が起源だ。翌年にはStartupの数を50社に増やしてTechCrunch50となり、2010年には春はNYCで開催し、秋はSan Francisco市で開催されるようになった。2018年からはSan Franciscoのみの開催となり、コロナ禍を経て内容も見直された。

 (2) スタートアップトレンドの変遷

 TechCrunch40が初めて開催された2007年はMySpace社などのSNSが注目され始めていた頃で、Facebook社の台頭もあり、多くのSNSサービスを会場で見かけた。次のトレンドはSharing Economyだ。その当時はSharing Economyという言葉はなかったが、Uber社の登場を受けてAirbnb社などのOn-Demandサービスが大人気となった。その後、AR/VR、AIとトレンドが変わり、今年はCleanTechに注目が集まった。

 Finalistに残ったAdvanced Ionics社は、効率よくかつグリーンに水素を生成するためのElectrolyzer Technology(電解槽技術)を開発している。同社はCleanTech Group社が発表した”Cleantech 50 to watch 2022″にも選ばれていて、TC Disrupt Finalistの称号と合わせて、今後の成長が見込まれる。

2-2. 展示会場の様子

 例年だと、TC DisruptにはStartup Battlefiledに応募したStartup以外に100社以上のStartupが日替わりで展示を行う。他にもInternational Zoneがあり、世界各地からStartupが展示をしている。TC Disruptは例年、3日間の開催であるため、TC Disruptに参加すると500社以上のStartupと出会える可能性がある。

 しかし、2022年はStartup Battlefieldに選ばれた200社とInternational Zoneに参加したStartupが日替わりではなく、3日間通して展示を行った。毎年、セッションを聞くか、展示会場を回るか悩んでいたが、今年はセッションも展示会場もじっくりと堪能できた。

(1) テーマ

 今年のテーマは、”Education, HR + Future of Work”、”FinTech + Blockchain”、”HealthTech + BioTech”、”CleanTech + Climate”、”Hardware, Robotics, AI + ML”、”SaaS, Enterprise + Retail”、”Mobility + Transportation”、”Space + Security”の8つで、これらのテーマに沿ったStartupが200社選ばれた。

【写真2】TC Disrupt 2022のテーマ

【写真2】TC Disrupt 2022のテーマ
(出典: 筆者撮影)

(2) 注目スタートアップ

 ここでは、展示会場で見つけたStartup達をカテゴリーごとに紹介する(アルファベット順)。

(2-1) Education, HR + Future of Work

(a) Typed社

Typed社はGoogle Docs、Google Slideのドキュメントをチーム間で効率的に共有・共同編集するためのソリューションを提供している。資料に写真、図、PDFファイルを挿入する場合、出展元は記載するが、どこからダウンロードしたのか分からなくなるというのはよくある話だ。Typed社は資料の中にある写真、図、PDFファイルを誰でも一眼で分かるようにするだけでなく、複数の資料で同じ写真、図、PDFファイルが使用されている場合、資料の相関会計を可視化してくれる。そうすれば、「あの図はどこの資料で見たんだろう?」ということもなるなるはずだ。

 Typed社は韓国発のStartupで、2021年7月に米国進出を果たしている。ある記事によると、米国進出後、Stanford University、UC Berkeley、Yale University、University of Michiganなどの1,200人以上の学生が同社のサービスを利用しているそうだ(2022年5月18日時点)。

【写真3】Typed社のドキュメント関連図

【写真3】Typed社のドキュメント関連図
(出典: 筆者撮影)

(2-2) FinTech + Blockchain

(a) SPARE社

 米国ではスーパーなどでDebit Cardを使って買い物する時、現金を引き出すことができる。また、米国ではレストランにATMが置いてあるので、比較的簡単に現金を引き出せるが手数料がとても高い。また銀行のATMも系列でない場合、やはり手数料は高い。

 そこで、SPARE社は現金を引き出すプロセスをデジタル化し、個人商店のキャッシャーでもATMとして利用できるようにした。SPARE社はアプリ開発だけでなく、Clover社などのPOSシステム会社と連携してハードウェアの開発も行なっている。

 ここでSPARE社のアプリを使って現金を引き出すプロセスを説明する。ユーザーはSPARE社のアプリを使って、現金を引き出すお店を選ぶ。SPARE社のサービスが利用できるお店はアプリ内に地図表示されているため、お店の選択は簡単だ。お店を選んだら、引き出す金額を指定し、いくつかの承認プロセスを経ると現金を引き出すためのQRコードをゲットできる。あとは、お店に行って専用デバイスでQRコードを読み込ませれば現金が引き出せる。

 お店は現金が必要なユーザーを顧客として迎えるということだ。また、事前にプロセスが完結しているため、現金を渡す時間と手間も減らせるのも嬉しいだろう。

 現在、Los Angeles地区とSan Francisco地区でビジネスを展開し、順次サービス提供エリアを拡大していく予定だそうだ。

【写真4】SPARE社のデモ画面

【写真4】SPARE社のデモ画面
(出典: 筆者撮影)

(2-3) HealthTech + BioTech

(a) Munevo社

 米国ではスーパーや街中でも電動車椅子を見かけるくらい、電動車椅子の利用のハードルは低い。ただ、深刻な病気を患っている人にとっては、操作レバーでの操作も難しいそうだ。そこでMunevo社は、Google Glassを使って電動車椅子を操作する技術を開発している。同社が開発している技術は、Google Glassのジャイロスコープと加速度センサーを使って利用者の首の傾きを電動車椅子に取り付けたデバイスに送り、そのデバイスが首の傾きを分析して電動車椅子を動かすというものだ。同社の担当者は、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊髄の怪我で首から上しか動かせない人にとっての希望になるはずだ。」と目を輝かせて説明してくれた。

【写真5】Munevo社の電動車椅子

【写真5】Munevo社の電動車椅子
(出典: 筆者撮影)

(2-4) CleanTech + Climate

(a) BeFC社

 化学物質の不法投棄による土壌汚染は深刻な環境問題の一つだ。BeFC社は使い終わった電池を土に埋めると自然に分解するバイオ燃料電池を開発している。BeFC社が開発しているバイオ燃料電池はとても薄い。会場にいたBeFC社の米国のBizDev担当者のSofia Malferrariさんは、「薄型・軽量で柔軟性があり自然に優しいという特色を活かしたIOT、Healthcare、Logistics、Smart Packageなどのソリューションを開発している。」と説明してくれた。また、Sofiaさんは会場で、薄型の気温・湿度センサーに同社の電池を重ねて、Smartphoneでリアルタイムに気温、湿度を表示するデモを見せてくれた。

 BeFC社は東京都と連携して日本市場への参入機会を伺っている。10月初旬には、Franceから営業と技術のトップが日本を訪れたそうだ。

【写真6】Sofiaさんが右手に持っているのがBeFC社のバッテリー

【写真6】Sofiaさんが右手に持っているのがBeFC社のバッテリー
(出典: 筆者撮影)

(2-5) Hardware, Robotics, AI + ML

(a) AppMap社

 AppMap社はAIを活用してソフトウェアのコードに潜む脆弱性の発見、最適なコードの提案をする独自のIDEを開発している。AppMap社のIDEを使えば、エンジニアはアプリ開発に集中でき、脆弱性を含むコードは後からAppMap社のIDEが教えてくれる。また、AppMap社はモジュールの関連図も可視化してくれるため、エンジニアはソースコードを上から下まで眺めなくても同じコードを使っているモジュールを一眼で探すことができる。対応している言語は、C#, Javascript, Java, Pythonなどだ。

 今年のTC DisruptにはSourcery社というAppMaps社と同様のサービスを提供しているStartupが参加していた。AppMaps社との違いは、AI以外にコミュニティと連携して脆弱性を含むコードの検出もしてくれる。最近は、公開されているモジュールを使ってアプリ開発をするケースもあるため、このようなソリューションが可能となる。

【写真7】AppMap社のデモ画面

【写真7】AppMap社のデモ画面
(出典: 筆者撮影)

(2-6) SaaS, Enterprise + Retail / AI + ML

(a) SoftDrive社

 SoftDrive社はローカルのコンピューター環境をクラウドに構築できるソリューションを提供している。SoftDrive社はCloud VirtualizationとRemote Desktopの二つのソリューションを提供している。ここではRemote Desktopについて紹介する。クラウドを利用するとき、最初にCPUパワーやメモリ容量を設定すると思うが、SoftDrive社のクラウド環境、そのような初期設定は必要ない。SoftDrive社がユーザーの利用状況を見ながらダイナミックかつリアルタイムにCPUパワーやメモリを自動的に変更してくれるからだ。クラウドの画面はNetflixのようなVideo Streamingとして暗号化した上で、複数の経路に分散して配信される。SoftDrive社は配信遅延を避けるため、TCPではなくUDPを用いている。

 Microsoft OSのライセンスについては、Insight社とパートナーを組み、Insight社からOSのライセンスを調達している。

 「本当はSoftDrive社の環境をパートナーが再販するモデルでビジネスを展開したいが、まだそこまでの体力がないため、まずは技術ライセンシングを受けてSoftDrive社の環境をクラウドに構築して再販してくれるパートナーとの連携を目指す。」とSoftDrive社のCo-founderのAlan Danielsさんは話してくれた。当面は、個人、企業、学校やNPO、クラウドプロバイダー向けに提案活動をするそうだ。

(2-7) Mobility + Transportation

(a) Swyft Cities社

 ヨーロッパの一部の都市では環境保護を目的に都心部への商業車、自家用車の乗り入れが規制されていて、自転車やMobilityサービスなど自動車に変わる移動手段が注目されている。元Google社員が立ち上げたSwyft Cities社(以降、Swyft社)は都市の空中をゴンドラで移動できるようにするというユニークなMobilityサービスを開発している。Swyft社が言うには、鉄道やトラムを開発するには莫大な建設コストと長い年月がかかる。しかし、ゴンドラであれば鉄道やトラムと比べると建設コスト、建設期間の両面で圧倒的にアドバンテージがあるそうだ。

 Swift社のターゲットは主要駅から工場や企業や大学などのキャンパスまでの移動で、言うなれば”Last Mile Transportation”だ。

 現在同社は、Mountain View市の本社で設計・開発を進めながら、New Zealandで実証実験に向けた準備も進めている。

 Swift社は以前、10月7日に大手町ビルでイベントを開催したAutotech Councilで会ったことがあり、TC Disruptの会場では「Autotech Councilで会ったね」と再会を祝った。

【写真8】Swyft Cities社のゴンドラ型都市交通

【写真8】Swyft Cities社のゴンドラ型都市交通
(出典: 筆者撮影)

(2-8) Space + Security

 ここではSecurityに関わる4社のStartupを簡単に紹介する。

(a) Ciphermode社

 Ciphermode社は暗号化したデータを複合化することなくデータ分析できるようにしている。データオーナーがCiphermode社の技術でデータを暗号化すると、データはEncryption Layerでカプセル化される。そのデータをデータ分析社は複合化せずに、Encryption Layerの中のデータを直接見て分析し、分析結果もEncryption Layerの中に保管する。分析結果を受け取ったデータオーナーもEncryption Layerの中の結果データに直接アクセスできるため、一度暗号化すれば、複合化することなくデータを安全に管理できる。

【写真9】Ciphermode社のアーキテクチャー

【写真9】Ciphermode社のアーキテクチャー
(出典: 筆者撮影)

(b) Lockr社

 展示会に参加したり、オンラインで物を買ったりすると多くのJunk mailが送られてきて、日々メール削除、Unsubscribeを繰り返して人が多いと思う。私も目的に応じて複数のメールアドレスを使い忘れているが、使い分けるメールアドレスが増えて困っている。アカウント部分に”+”を付けて使い分ける方法もあるが、対応していないサービスもあるため、解決策にはなっていない。それを課題に感じたLockr社はJunk Mail対策ソリューションを提供している。

 Lockr社のソリューションは、Mail Proxiyとも言うべきサービスで、ユーザーは実際のメールアドレスの代わりにLockr社が提供するメールアドレスを利用する。ユーザーはLockr社のポータルサイトで受信を許可するドメインと届いたメールをどのメールアドレスに転送するかを指定するだけ。たったそれだけで、ユーザーはJunk Mailとの戦いから解放される。

(c) Optery社

 プライバシーは非常に関心が高く、個人情報の取り扱いについては、GDPR(General Data Protection Regulation)、CCPA(California Consumer Privacy Act)など、さまざまな規制がある。しかし、私たちが日々使っている便利なサービスの裏側ではData Brokerを通じて個人情報が第三者の手に渡っている可能性がある。例えば、SNSや地図アプリを使うとユーザーの位置情報が露出してしまう。さらに位置情報の移動スピードを分析することで、歩いているのか自動車に乗っているかも想像がつく。ユーザーの位置情報が都市計画に活用される場合は、私たちの生活が良くなると言うことで納得感があるかもしれないが、位置情報が悪用される場合も考えられる。Optery社はインターネットに住所、電話番号、誕生日などの個人情報がどの程度露出しているのかレポートしてくれる。最初のレポートは1時間後に電子メールで報告があり、その後は90日ごとにレポートを送ってくれる。Optery社は$9.99/monの有料プランを提供していて、そのプランに加入すれば、Optery社が露出している個人データの削除をユーザーに代わってData Brokerに交渉し、交渉結果をレポートしてもらえる。

2-3. ステージの様子

 毎年多くの有名人が登場する。過去にはFacebook社(現、Meta社)のCo-founder & CEOのMark ZuckerbergさんやHollywood俳優で投資家でもあるAshton Kutcherさんが登場し、広い会場が超満員になっていた。2022年のTC Disruptを彩ったのは今年引退したプロテニスプレイヤーのSerena Williamさん。自身が設立した投資会社のSerene Ventures社のGeneral PartnerのAlison Rapaport Stillmanさんと一緒にStageに上がった。

【写真10】大盛況のSerene Williamsさんのセッション

【写真10】大盛況のSerene Williamsさんのセッション
(出典: 筆者撮影)

 Stageの人気コンテンツといえば、昔も今も変わらず”Startup Battlefield”だ。2022年は”Startup Battlefield 20″と称し、選出した200社のStartupのトップ20が3分間のPitchを行った。

 ここからは”Startup Battlefield 20″に登場したStartupを紹介する。Startup Battlefield 20に選ばれた20社のStartupは4つのグループに分かれてPitchを行った。20社の内訳を見ると、

  • CleanTech + Climate: 6社
  • HealthTech + BioTech: 4社
  • Education, HR + Future of Work: 3社
  • FinTech + Blockchain: 2社
  • Hardware, Robotics, AI + ML: 2社
  • SaaS, Enterprise + Retail: 2社
  • Space + Security: 1社

となっていて、”Mobility + Transportation”からは選ばれなかった。Uber社やGet Around社が1時代を築いた頃とはすっかり様変わりしている。

【図1】Startup Battlefield 20

【図1】Startup Battlefield 20
(出典: TechCrunch社の情報をもとに筆者が作成)

 そしてFinalistに選ばれたのは、Advanced Ionics社(CleanTech)、AppMap社(SaaS)、Intropic Materials社(CleanTech)、Minerva Lithium社(CleanTech)、Swap Robotics社(Hardware)の5社で、このリストを見てもCleanTechがトレンドの中心であることは疑いようはない。

 優勝したのは、リチウムバッテリー向けの素材開発しているMinerva Lithium社。Pitch後のJudgeからの質問にも的確に回答し、Judgeの面々も回答に納得していた。Minerva Lithium社はCleanTechのカテゴリーで参加していたが、ソリューションはNew Materialだろう。私の知る限り、New Material系のStartupがStartup Battlefieldで優勝したのは初めてではないだろうか。

【写真11】優勝したMinerva Lithium社

【写真11】優勝したMinerva Lithium社
(出典:TechCrunch社)

3. おわりに

先述の通り、米国の秋のカンファレンスシーズンは11月末のThanksgivingまで続く。今後も機会があれば、それらのイベント参加して報告する。

 

本記事は、NTTコミュニケーションズ イノベーションセンターの小室智昭氏より寄稿いただいた原稿をそのまま掲出しています。


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