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ビジネス特集 デザインは、見た目じゃない | NHKニュース

デザインは、見た目じゃない



「デザインとは、見た目ではなく、そのモノがどう機能するのかということだ」
「シンプルであることは、時に複雑であるより難しい」
アップルの創業者、故スティーブ・ジョブズ氏のことばだ。ジョブズ氏が亡くなって10年。彼がこだわった「デザイン思考」と呼ばれる考え方は、どのようにものづくりに根づいていったのだろうか。
(ロサンゼルス支局 山田奈々)


マーケティングのプロからの影響

“シリコンバレーを作った人物の1人”と称され、故スティーブ・ジョブズ氏が頼りにした人物がいる。
レジス・マッケンナ氏。
半導体関連の企業で働いたあと、70年代にみずからのマーケティング会社を設立した、マーケティングのプロだ。

あるときマッケンナ氏は、うわさを聞きつけたジョブズ氏から電話でコンタクトを受け、ジョブズ氏、そしてエンジニアのスティーブ・ウォズニアック氏との打ち合わせにのぞんだ。

相談は「アップルII」(1977年発売)というコンピューターのマーケティングについて。
ジョブズ氏らは、製品についての記事を雑誌に載せる方針を明かした。

マッケンナ氏は、その内容があまりに専門的で、一般の消費者には受け入れられないと感じ、「市場を広げたいなら、自分と同じようなタイプの人たちに発信するのではだめだ。記事は書き直すべきだ」と助言した。

ところが2人はその意見を気に入らず、部屋を出ていってしまったという。

マッケンナ氏
「最初の打ち合わせはうまくいかなかったのですが、スティーブは後日、電話してきました。彼に一度興味を持たれたらもう逃れられない。午前3時でもお構いなしで電話してくるし、頻繁に会いに来ました。いろんな話をして、今後、アップルという会社がどうあるべきか、最終的には私の言ったことを理解してくれたんだと思います。マーケティングがすべて。すべてはマーケティングだということ。そしてマーケティングは『デザイン思考』の一部であるということを」

デザイン思考≠デザイン

デザイン思考とは、デザイナーの技術のことではない。
ものを作る時、デザインする時、世の中にはどんな課題があり、人々は何を欲しがっているのかといった問いに答えながら、課題解決やニーズを満たす製品づくりに向けてアイデアを具体化させていく思考方法のことだ。

マッケンナ氏は、ジョブズ氏にはデザイン思考を体現する素質がもともとあったと考えている。
そして、マッケンナ氏との交流を通じて才能を開花させたと。

すぐれた技術を持つ製品や、作り手が良いと思う製品は人々に受け入れられるという考え方から、多くの人々のニーズを満たすにはどうすればよいかという思考へ変化したのだ。

マッケンナ氏
「スティーブは、いろんな店に行って買い物客をよく観察していました。人々がどういうものを欲しがっているのか、実際に人に会ってたくさん質問して、“市場と対話”していたんです。“こうだったら良いのにな”という物事の先を見る目はピカイチだったと思います」

ニーズからの逆算

アップルIIは、アップルの製品が、誰でも使える製品へと変化を遂げる転機となった。
そう語るのは、バリー・カッツ氏。
デザイン思考を広めた企業として知られるシリコンバレーのIDEOというコンサルティング企業の一員で、現在はカリフォルニア美術大学の教授でもある。

専門の知識を持つ人が組み立てなどをしないと使えなかったそれまでの製品と違い、アップルIIは広く一般の消費者も使えるコンピューターとして開発された。

コンピューターで文章を書いたり、計算したりしたいと思う人々に対し、あるべき姿はどういったものか。
製品を通じてどんな体験を提供できるのか。
こうした発想からデザインへの問いが生まれたという。

そして、専門知識や特別な道具がなくても使える“完成品”として設計されることになった。
その経験が、のちのちまで製品づくりの土台となっていく。

カッツ教授
「スティーブは『デザインとは見た目ではなく、そのモノがどう機能するのかということだ』ということばを残しています。彼が言いたかったことは、製品をつくる過程において、最初から最後まで通してデザイナーに関わってもらうことの重要性。そして、デザインの本質とは、製品の外見だけでなく、その中身や機能性も含めたものだということだと理解できます。iPhoneは人類の歴史の中で最も成功した製品だと言えるでしょう。でもそれは、画面が大きいとか、見た目のかっこよさが要因ではない。これまで誰もしたことがない体験を生み出したから成功できたのです」

息づくデザイン思考

ジョブズ氏のデザイン思考に強く影響されたというデザイナーの1人に会った。
ロサンゼルスに住む、ビクター・ゾード氏。

1980年代、高校生の時に発売されたコンピューターに魅せられ、その構造を詳しく書いたパンフレットを作成。
母親のアイデアでジョブズ氏宛に送ってみると、なんとアップルから自宅に電話がかかってきたという。

それがきっかけでデザインチームにインターンとして参加し、大学に入学するまでのおよそ2年間、ソフトウエアのデザイナーとしてアップルで働いた。

デザイナーの道を歩むきっかけになったその経験は、ゾード氏が製品をデザインする際の礎になっている。

これまでに、すしチェーンのテイクアウト用のボックスのほか、紅茶や緑茶の缶など、消費者に身近な商品のデザインを手がけてきた。

ゾード氏
「インターンの時にスティーブから学んだのは、自分がデザインするものに対する情熱と信念を持つことでした。なぜそのように作ったのか、情熱を持って誰かに語れるものでなければならない。たとえば、アメリカではまだ当時、浸透していなかった緑茶を入れる缶はどんなデザインにすべきか。単なる入れ物としてではなく、缶を開ける時から飲むまで、そして飲んだあとに至るまで、体験そのものをデザインすることを心がけました」

ジョブズ氏になれなくても

デザイナーを目指す若者に講義する大学教授のバリー・カッツ氏。
かつて、ジョブズ氏に「これから授業に戻ってデザインを学ぶ学生たちに話をするが、何かメッセージはあるか」と尋ねたことがあったという。

ジョブズ氏の答えはこうだ。

「自分が尊敬できる仕事をしている人の会社に身を置くために、必要なことは何でもすべきだ。単調でつらい仕事でも。その人の働き方や思考プロセス、技術的なスキルを間近で見られる経験に、とって代わるものは何もない」

ジョブズ氏にデザイン思考を教えたマッケンナ氏のもとには「自分もスティーブ・ジョブズのようになりたい」という内容のメールが今も若い人たちから届くという。

それは簡単なことではない。

ただ、デザイン思考を学び、実践することが、どんな分野であれ、第2、第3のジョブズ氏を生むことにつながる可能性はありそうだ。

シリコンバレーには、その土壌がある。

ロサンゼルス支局記者
山田 奈々
2009年入局
長崎放送局、経済部、国際部などを経て現所属

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