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読書委員が選ぶ3冊 : 特集 : 本よみうり堂 : エンタメ・文化 : ニュース : 読売新聞オンライン

 「本よみうり堂」では、読書委員20人が毎月400冊を超える新刊本に目を通します。書評すべきだと思う本は全員で回覧して議論、検討した上で紹介しています。今年の新刊の中から「これは!」と思った3冊を挙げてもらいました。

飯間 浩明(国語辞典
編纂(へんさん)
者)

〈1〉山田忠雄他編『新明解国語辞典 第八版』(三省堂、3100円)

〈2〉北原保雄編『明鏡国語辞典 第三版』(大修館書店、3000円)

〈3〉阿部正子編『てにをは俳句・短歌辞典』(三省堂、3200円)

 注目すべき小型辞典が相次いで刊行。〈1〉はニュアンスを細かく描く解説が好評です。最新版は「良妻」という語の歴史的背景を説明するなど、今日的観点から記述されています。〈2〉は正誤をはっきり言うことで知られますが、最新版は「敷居が高い」の新用法を〔新〕として示すなど柔軟な姿勢も見られます。〈3〉は「怠け者」を引くと露伴や白秋の俳句や短歌が出てきます。季語にとどまらず、多様な歌語の使い方が分かります。

鈴木 洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

〈1〉立木康介著『女は不死である』(河出書房新社、2700円)

〈2〉ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー著『その名を暴け』(新潮社、2150円 古屋美登里訳)

〈3〉久世濃子著『オランウータンに会いたい』(あかね書房、1300円)

 〈1〉は、フランスの精神分析家ジャック・ラカンをじっくりと読みこみ、現代における男女関係をとく、濃厚な一冊です。立木ファン待望でした。〈2〉もまた、性別を根元から考える種をくれます。ハリウッド大物の非道を丹念に追い、米国社会を描く、だけでなく、告発の意義もつきつけます。〈3〉は、霊長類研究を通じて、家族と生きる意味を見つめさせます。コロナまで5年間ワンオペ育児だった評者は「孤育て」仲間に勇気をえました。

加藤 聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

〈1〉ベン・ステイル著『マーシャル・プラン』(みすず書房、5400円 小坂恵理訳)

〈2〉石井妙子著『女帝 小池百合子』(文芸春秋、1500円)

〈3〉『原典完訳 アヴェスタ』(国書刊行会、8800円 野田恵剛訳)

 〈1〉近年、ヨーロッパ戦後史の充実ぶりはめざましい。本書も冷戦史を学術書でありながらドラマチックに描いて読み応え十分。〈2〉単なる暴露本ではない。テレビと政治が結びついて劣化した平成政治史を見事に活写。歴史資料としても耐えうる時代の証言。〈3〉ゾロアスター教という馴染なじみが無いが、キリスト教やイスラム教に影響を与えた創唱宗教の聖典。知的格闘技史上最強の相手にどこまで立ち向かえるか?読書人の腕が鳴る!

村田 沙耶香(作家)

〈1〉レティシア・コロンバニ著『彼女たちの部屋』(早川書房、1600円 齋藤可津子訳)

〈2〉リン・エンライト著『これからのヴァギナの話をしよう』(河出書房新社、2200円 小澤身和子訳)

〈3〉バリー・ユアグロー著『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』(Ignition gallery、720円 柴田元幸訳)

 書評欄で紹介できなかった本から選んだ。〈1〉は、時を超えてつながる、戦い生き抜く女性の姿に強く揺さぶられ、励まされた。〈2〉は、タブーとされがちな女性器や生理などについて、真っすぐ真摯しんしに書かれていて、出会えてよかった本。〈3〉パンデミックにより変わってしまった世界で、これらの寓話ぐうわは、壊れかけた自分の核心に触れてくる感覚があり、精神の救いとなった。ISBNコードのない本だが、取り扱っている本屋さんで入手できる。

南沢 奈央(女優)

〈1〉朝井まかて著『輪舞曲』(新潮社、1650円)

〈2〉シーグリッド・ヌーネス著『友だち』(新潮クレスト・ブックス、2000円 村松潔訳)

〈3〉益田ミリ著『今日の人生2 世界がどんなに変わっても』(ミシマ社、1500円)

 仕事が無くなり抜け殻になっていた時に読んだ小説〈1〉。<舞台こそが私の砦。二度と下りるもんですか>。実在した伝説の新劇女優・伊澤蘭奢の熱情に目が覚めた。友人とのオンラインお茶会で何時間も〈2〉の話題で盛り上がったのも、今年ならではの良き思い出。「これは小説なのか」と奇妙な感覚の中で思考させる。表紙が好き。と言えば〈3〉も同様。益田さんの絵と言葉には美しいエネルギーが満ちている。日々生きていることに感謝。

苅部 直(政治学者・東京大教授)

〈1〉田島列島著『水は海に向かって流れる』(講談社、全3巻各620円)

〈2〉チャールズ・テイラー著『世俗の時代』(名古屋大学出版会、上下各8000円 千葉眞ほか訳)

〈3〉松沢弘陽著『福澤諭吉の思想的格闘――生と死を超えて』(岩波書店、9500円)

 〈1〉は若い男女の気持ちの交錯と、周囲の人々との軽妙なからみを描いた漫画。先ゆきが見えず不安な日々を送った年に、第3巻が出て完結したのは、心の栄養になった。
 〈2〉は最後の体系的哲学者と思われるテイラーの代表作。近代社会における世俗化の過程を幅ひろくたどり、宗教の意味を問い直す。
 〈3〉は福澤諭吉と丸山眞男に関する、長年の研究をまとめた待望の書。日本思想史分野での今年最大の収穫である。

佐藤 信(古代史学者・東京大名誉教授)

〈1〉寺崎保広著『聖武天皇』(山川出版社、800円)

〈2〉近江俊秀著『海から読み解く日本古代史』(朝日選書、1400円)

〈3〉石原比伊呂著『北朝の天皇』(中公新書、880円)

 専攻分野にやや傾くが、書評を紹介できなかった書三つ。いずれも、新鮮な切り口で最新の研究状況を平易に語る。史資料を学際的・広角的に読み解く点に注目したい。〈1〉は、聖武天皇の若々しい前半生から仏教に没入した後半生までを、そのコトバとともに立体的に描く。〈2〉は太平洋水運による多彩な地域間交流の世界を、遺跡・遺物から解明する。〈3〉は焦点である公武関係について、南北朝・室町時代の実像に切り込む。

稲野 和利(ふるさと財団理事長)

〈1〉イーアン・ペアーズ著『指差す標識の事例』(創元推理文庫、上下各1260円 池央耿、東江一紀、宮脇孝雄、日暮雅通訳)

〈2〉ウィル・ハント著『地下世界をめぐる冒険』(亜紀書房、2200円 棚橋志行訳)

〈3〉アルベルト・カイロ著『グラフのウソを見破る技術』(ダイヤモンド社、1800円 薮井真澄訳)

 書評未掲載の3冊。〈1〉17世紀王政復古時代のイングランドが舞台の重厚な歴史ミステリー。同一事件に関わる4人の手記で構成され、次々に内容が上書きされる展開に眩暈めまいを覚える。〈2〉「人はみな、心に洞窟を持っている」とする著者に導かれ都市の地下や洞窟を巡ると、闇の向こうに驚きの世界が広がる。〈3〉「ウソをつくグラフ」の実例が豊富で、眺めていて面白い。読めば、細心の注意を持ってグラフを見る習慣が身につくだろう。

三中 信宏(進化生物学者)

〈1〉アーノルド・ゼイブル著『カフェ・シェヘラザード』(共和国、3200円 菅野賢治訳)

〈2〉オタ・パヴェル著『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』(未知谷、2500円、菅寿美・中村和博訳)

〈3〉ブルーノ・ドゥーセ著、小宮輝之・山口杉朗監修『ジビエレシピ プロのためのジビエ料理と狩猟鳥獣』(グラフィック社、3900円 柴田里芽訳)

 書評欄未登場の3冊。〈1〉はメルボルンのカフェに集まるユダヤ人ホロコースト生存者たちのモノローグ本。過酷な戦争体験に翻弄ほんろうされる人生行路。〈2〉はチェコの作家による第2次世界大戦から戦後にかけての自伝的短編集。幼少時代にボヘミアのベロウンカ川で魚釣りに開眼。釣りは人生そのもの。〈3〉はパリの有名レストランのシェフによる狩猟鳥獣のジビエ料理レシピ集。日本のジビエ食文化とのちがいは歴然としている。

橋本 倫史(ノンフィクションライター)

〈1〉坪内祐三著『本の雑誌の坪内祐三』(本の雑誌社、2700円)

〈2〉九龍ジョー著『伝統芸能の革命児たち』(文芸春秋、1500円)

〈3〉柴崎友香著『百年と一日』(筑摩書房、1400円)

 〈1〉今年1月13日に急逝した評論家・坪内祐三さんが『本の雑誌』に寄稿した原稿がまるごと一冊に。雑誌と文学、街と書店、酒と本。坪内さんは文化の背景にある様々な文脈を教えてくれる先生だった。〈2〉伝統芸能の世界で繰り返され続ける革新を、同時代的に論じた一冊。現場に足を運び続ける著者でなければ書けない批評に敬服する。〈3〉今年読んだ小説の中で印象的だった『百年と一日』。年の瀬にじっくり読み返したい。

栩木 伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

〈1〉アレン・ギンズバーグ著『吠える その他の詩』(スイッチ・パブリッシング、1500円 柴田元幸訳)

〈2〉杉本真維子著『三日間の石』(響文社、2400円)

〈3〉藤森照信著『藤森照信 建築が人にはたらきかけること』(平凡社、1600円)

 〈1〉は1955年、閉塞へいそくした時代のアメリカで書かれた長編詩の新訳。人間らしくあろうとして傷ついた世を憂え、魂の地獄から持ち帰った愛を歌う声が今ますます切実だ。〈2〉はエッセイに擬態した詩集。暮らしの中で拾われた発見の数々が澄みきった散文で報告される。〈3〉の著者は日本近代建築の悉皆しっかい調査で知られ、縄文的宇宙観を生き、自然と人間をつなぐ建築を実践してきた人。インタビューによる自伝が痛快無比である。

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