
WEB特集 新型コロナと日本 今、何が起こっているのか | 新型コロナウイルス

国内で初めて新型コロナウイルスの感染が確認されたのは、昨年1月15日でした。当時は「新型肺炎」と呼んでいました。
それから1年。日本は3度の大きな「感染の波」を経験し(現在も“第3波”の真っ最中ですが)今、2度目の緊急事態宣言を迎えようとしています。改めて今、何が起こっているのか、どうすればいいのか、まとめてみました。
(科学文化部 記者 三谷維摩・安土直輝)
今何が起こっている?
新型コロナウイルス対策に当たる政府の分科会は、1月5日、緊急の提言をまとめました。
この中では、現在の感染状況について「大都市圏だけでなく、地方でも広がりやすい状況になっていて、クラスターも多様化するなど、これまでとは様相が異なってきた」と分析し、「首都圏の感染状況が沈静化しなければ、全国的に急速に感染がまん延するおそれもある」としています。

実際に首都圏、特に東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県の1都3県については、分科会が示している4つのステージの内、最も深刻な「ステージ4」相当の対策が必要になっていると指摘されています。
分科会が示した4つのステージは次のとおりです。

▽ステージ2:感染者が徐々に増加。医療提供体制への負荷が蓄積する段階
▽ステージ3:感染者が急増。医療提供体制に大きな支障が出るのを避けるための対応が必要な段階
▽ステージ4:爆発的な感染拡大や深刻な医療提供体制の機能不全を避けるための対応が必要な段階
ステージ4相当の対策が必要な段階というのは「爆発的な感染拡大」の入り口にさしかかりつつある、非常に深刻な状況です。
分科会では、この段階になると、緊急事態宣言などを検討せざるをえないとしてきました。
2度目の緊急事態宣言
では、2度目の緊急事態宣言は、去年の宣言とどこが違うのでしょうか?分科会が強調しているのが、「学んできたこと」をしっかりと生かすということです。
新型コロナウイルスは、去年1月の時点ではまだ「未知のウイルス」でした。「どうやって感染するのか?」「症状は?」「治療はできるのか?」など多くのことが謎でしたが、1年間で分かってきたことも少なくありません。
発症する2日程度前からウイルスが排出されること、若い人は症状が軽いケースが多いこと、それに高齢者や持病がある人の重症化リスクが高いことなどです。
中でも、日本の研究によって、早い段階から提唱されたのが「密閉、密集、密接」の「3つの密」を避ける対策でした。

新型コロナウイルスは感染の広がり方に特徴があります。感染している人が、まんべんなく次々と誰かにうつしていく訳ではなく、ある一定の条件がそろった環境に人が集まると、その場所で感染リスクが高まるのです。
その環境というのが「3密」でした。
インフルエンザなどで考えられていたような飛まつによる感染に加えて、ごく小さな飛まつ「マイクロ飛まつ」が漂うことで感染することが原因の1つだと考えられています。
こうした感染拡大の様式は、「スーパースプレッディングイベント」と呼ばれています。

特定の人が原因となるのではなく、環境の条件がそろえば感染リスクが上がるということは、その環境を避けないと、誰もが多くの人にうつしてしまうおそれがあることになります。
逆に「3密」を徹底的に避ければ、感染拡大を抑えることができる可能性があるのです。
こうした、「これまで学んできたこと」を元に、政府の分科会では感染対策の「急所」として、飲食の場での感染リスクを下げることが重要だと指摘しています。
対策の“急所” どうして飲食店?
飲食の場への対策が重視される根拠の1つとなっているのが、アメリカ・スタンフォード大学などのチームが去年11月にイギリスの科学雑誌「ネイチャー」で発表した論文です。

論文では、アメリカの主要都市を対象に、昨年3月から5月までの、およそ9800万人の携帯電話の位置情報のデータを使って、どんな場所で感染拡大が発生しやすいのか、数理モデルによる分析を行いました。
この中で、どのような店舗が休業から再開した場合に感染が増えるかを調べたところ、感染拡大に最も関連すると予測されるのが、「フルサービスのレストラン」だったのです。
このあと、「スポーツジム」、「カフェ」、「ホテル」などが続きました。
逆に「ガソリンスタンド」「薬局」「コンビニエンスストア」「新車ディーラー」などは関連は低いと予測されました。

論文では、例えばシカゴで休業していたレストランが「フルサービス」で再開した場合、1か月で新たにおよそ60万人の感染者が発生すると予測していて、これは2番目に関連性が強いとされたスポーツジムが再開した場合の3倍の人数になるというのです。
研究チームは、「フルサービスのレストラン」で感染リスクが高まるのは、「訪問客が多く、滞在時間が長い傾向があるためだと考えられる」としています。
一方で、論文にはレストランの営業再開のヒントとなる分析結果も盛り込まれています。
飲食店も含めてさまざまな店舗で最大収容人数の2割に人数を制限した場合、感染者の発生を8割減らせると予測したのです。
チームは「一律に移動を制限するよりも、店の収容人数を制限するほうが効果的だ」と指摘しています。
政府の分科会は、こうした論文に加え、国内でのクラスターの分析結果なども参考に、飲食の場を中心とした対策を「感染対策の急所」だとしました。

もちろんこれは「飲食店」だけではありません。
人が集まって飲食する場所や機会があると感染リスクは高まると考えられます。
食事をする際には、どうしてもマスクを外すこと、会話が増えること、それに、特に飲酒を伴う場合は声が大きくなったり、感染対策が不十分になったりしてしまうことなどが原因として考えられます。
緊急事態宣言を出すか出さないかにかかわらず、感染拡大を防ぐためには、飲食の場での感染リスクをどれだけ下げられるかが、カギになると考えられているのです。
ワクチンがくれば大丈夫?
感染拡大を防ぐ切り札になると期待されているのが、「ワクチンの接種」です。

アメリカやヨーロッパなど海外ではすでにワクチンの接種が始まっていますが、国内でも接種の準備が進められています。
1月4日の菅総理大臣の会見では「2月下旬までには接種を開始できるよう政府一体となって準備を進めている」とされました。
ワクチンで期待される効果と注意点をまとめました。
海外ではすでに接種開始
日本で1月6日までに承認申請が出されているのは、アメリカの製薬大手「ファイザー」とドイツのバイオ企業「ビオンテック」の開発した「mRNAワクチン」と呼ばれるワクチンです。
会社によりますと、このワクチンは2回接種することになっていて、接種は、インフルエンザワクチンなどで使われている皮下注射ではなく、筋肉注射という方法で行われます。

海外で行われた臨床試験の結果をまとめた論文によりますと、臨床試験では、
▼ワクチンを接種した2万人余りのうち、2回目の接種から7日目以降に新型コロナウイルスに感染したのは8人だったのに対し、
▼「偽薬(ぎやく)」と呼ばれる偽のワクチンを接種された2万人余りでは、感染した人は162人に上りました。
このことから、ワクチンによる予防効果は95%だとしています。
また、海外では、ファイザーのほかにも、「モデルナ」や「アストラゼネカ」などの製薬企業が開発したワクチンの接種が始まっていて、ロシアや中国では、自国製のワクチンが使用され始めています。
日本政府はファイザーをはじめとする欧米の製薬会社3社と、合わせて2億9000万回分の供給を受ける契約などを結んでいます。
接種始まるともう安心…ではありません
ワクチンに想定どおりの効果があるとしても、まだ課題が残っています。

1つ目の課題はワクチンを多くの人に行き渡らせるのに、時間がかかるということです。
ワクチンは多くの人が接種して、抗体を持つことで、ウイルスのまん延を防ぐ効果が期待されます。
今回の新型コロナワクチンは、国内では、医療従事者や高齢者、基礎疾患のある人などのリスクの高い人たちから優先的に接種されることになっていて、一般の市民まで広く行き渡るにはさらに時間がかかるとみられます。
多くの人たちに広くワクチンを接種するのは大変なことです。
接種する場所はどうするのかや、どういう順番で接種を行うのか、それに一般人たちにどういった方法で知らせるのかなど、事前の準備をしっかりと進めておかないと、ワクチンはあるのに、接種できないという事態にもなりかねません。

また、2つ目はワクチンの効果はいつから出るのかという問題です。ファイザーなどが開発したワクチンについては、1回目の接種から10日ほどたったころから、感染しやすさに差がでてきたということです。
このため会社では「部分的な予防効果が早期から得られることを示唆している」としています。ただ、会社では、このワクチンの最大の予防効果を得るためには2回目の接種を受ける必要があるとしています。
2回目を受けるのは最初の接種から21日後。ワクチンの接種が始まっても、すぐに効果が出るという訳ではないようです。
ちなみにワクチンを2回接種すること自体は通常のワクチンでも行われます。例えば、インフルエンザワクチンの場合、子どもなどでは、1度接種してもすぐに十分な抗体ができないことがあります。ところが2回目を接種すると、抗体が素早く上がります。
これは「追加免疫」とか「ブースター効果」と言われています。また、麻疹や風疹のワクチンでも、一定の割合で抗体が減ってしまう人がいるため、2回接種が行われています。
国内でワクチンの接種が始まったとしても、そこで気を抜かず、マスクの着用や「3密」を避けるといった感染対策を続ける必要があるのです。

さらに、もう一つ、考えておかなくてはならないのが、ワクチンの副反応問題です。
ファイザーとビオンテックが開発したワクチンの場合、世界規模での臨床試験では、重篤な副反応は報告されませんでした。ただ、ワクチンには、軽微なものも含めると副反応はつきものです。
海外では一般での接種が始まったあと、アナフィラキシーショックと呼ばれる強いアレルギー反応のような症状が出たケースが報告されています。
これまでのところワクチン自体の安全性に疑問を呈するほどではないとされていますが、ワクチンは健康な人に接種するものだけに、副反応については、慎重に見ていく必要があります。
ワクチン開発に詳しい東京大学医科学研究所の石井健教授は、次のように話しています。

石井健教授
「多くの人がワクチンに殺到してパニックが起こることや、逆にむやみに怖がって『ワクチン忌避』と呼ばれる風潮が広がるのも避けなければいけない。ワクチンを接種することの利点とリスクのバランスを考えながら、社会全体でしっかり対処していく必要がある。また、どんなにワクチンが有効でも、接種が始まってから、流行を抑える効果が出始めて、さらにその効果が実感できるようになるまでには4、5年は様子を見る必要があると考えられる。『最近、コロナの感染を見なくなったね』と思えるようになるまでには時間がかかるだろう」

科学文化部 記者
三谷維摩

科学文化部 記者
安土直輝
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